東京高等裁判所 昭和36年(く)56号 決定 1961年7月01日
少年 M(昭一七・一〇・二七生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の要旨は、原決定が認定した傷害事件は、少年が被害者に足を踏まれたため立腹して手で三回位殴つたにすぎず、その直後被害者と話し合い同人も悪かつたといつて別れたものであるから、少年院送致の処分を受けるような事件ではなく、少年は、昭和三十四年千葉星華学院(少年院)を仮退院後今日まで、一応真面目に働き本件のほか非行もなく、現在興行師の手伝をしているが、これは前の雇主である工務店主が死亡したため一時興行師の世話になつているだけで、将来にわたつてこの仕事をしていく気持はなく、なお少年を引き取つてくれる人があることも聞いていたのであるから、原裁判所が少年を中等少年院に送致する処分をしたのは不当であつてその取消を求めるというのである。
よつて調査するに、本件少年保護事件記録(静岡家庭裁判所昭和三五年少第三、五四一号、昭和三六年少第一、八八五号及び同年少第二、一四七号)及び少年調査記録によれば、原決定が認定した傷害の事実(非行事実第三)については、少年は、被害者が少年の足に触つたがたいしたことないと思つてそのまま通り過ぎたのに立腹し、やにわにその背後からコップを投げつけ、ものもいわずに左手拳で同人の頬部を殴りつけた後、少年自身どの位殴つたか分らぬ位続けざまに両手で同人の顔面、頭部等を殴りつけ、その場にうづくまつた同人の腰部や足を土足のまま数回蹴る等の暴行を加え、被害者の同伴者にとめられてようやくこれを中止し、被害者も少年に陳謝して事がおさまつたのに、さらにとめに入つた同伴者を屋外に連れ出して因縁をつけようとする等悪質な犯情を認めることができ、また少年の非行歴、生活歴、知能、性格、家庭環境等は原決定が詳細に説示するとおりであり、少年は昭和三十四年十月二十四日千葉星華学院を仮退院して佐賀県下の叔父方に帰住したが、保護観察所に就職斡旋を自ら依頼してその斡旋を得ながら就職先へ出発直前にこれを断わり、同年十二月二十日頃無断出奔して消息を絶ち、一時そば屋の出前持をしたが、失職するや自ら求めて本件まで約一年間やくざ徒輩の庇護下にあつたものであつて、これらの諸点を綜合すれば、少年が在宅のまま公の機関の保護に服して更生に努めるものとは到底考えられず、施設に収容して矯正をはかるのが適切妥当な措置であると認められる。原裁判所が少年を中等少年院に送致する決定をなしたのはまことに相当であつて、本件抗告は理由がない。
よつて、少年法第三十三条第一項少年審判規則第五十条に則り、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 岩田誠 判事 司波実 判事 小林信次)